神奈川県薬剤師会在宅医療研修会(2023年12月3日)での講演を終えて

神奈川県薬剤師会からの依頼を受け、2023年12月3日(日)に「在宅医療における薬剤師に期待すること」という内容で講演をさせていただきました。

神奈川県内に多く存在する医療機関のうち、開業3年目の当院を指名頂いたことに恐縮する思いと共に大変光栄に感じました。

薬剤師として調剤薬局に勤務し、管理薬剤師として薬剤師会業務にも携わった経歴があり、その後医師となったことで「医師」「薬剤師」両面からの目線で在宅医療に対し、さらには医師と薬剤師との関わり方などについて熱く語ることができたかと実感しました。

講演タイトル「在宅医療において薬剤師に期待すること」

講演において最も心掛けたことは「リアルな現場を感じ取ってもらうこと」でした。

私自身、膵臓癌末期の父をがん患者家族の立場で看取りまで立ち合い、それを機に当時薬剤師だった私が医師を目指した経緯があります。

この思いは今も変わらず、末期がん患者様の訪問診療をする際には、そのご家族とかつての自分を重ねながら、患者様本人にとって濃く深い最期の時間を自宅で、ご家族と共に過ごしていただけるよう努めています。

時にはご本人に許可を得たうえで動画撮影であったり写真による記録を残したりしておりましたので、講演においては普段薬剤師が立ち会うことのない看取りの場であったり、その直前の安らかなご本人やご家族の表情であったり、時には受容ができていなかった時の表情など「リアルな現場」を編集してスライドの合間に何例も紹介しました。

看取り後のご家族から頂いたお手紙を読み上げる場面もあり、会場からは涙をすする音が聞こえるほど、講演というよりもさながらドキュメントのような内容でもありました。

患者様ご家族よりいただいた手紙を朗読

私は講演の冒頭で「本日は調べればわかる情報やデータはほとんどスライドには載せていません。」と伝えており、実臨床において医師や薬剤師といった職種のくくりを超えて、在宅医療に対して真に必要なことはなにか、感覚的にでも伝われば良いと思いスライドを作成しました。

医学的知識や薬学的知識も時折踏まえ、実際の治療方針や麻薬によるペインコントロールの処方例、随伴症状に対する対応の仕方なども組み込みながら、講演を進めていくと、予定の60分を超えてしまい質問時間も使い果たすほど白熱してしまいました。

在宅医療研修会での講演でしたので、講演後は実際の処方例を用いてグループディスカッションが行われ、最後の講評までさせていただきました。

薬剤師として生きてきた自分が、医師の道を目指す決心をしたとき、薬剤師という仕事が好きでしたので後ろめたい気持ちにもなっていた時期がありました。

薬剤師を辞めて医師を目指したとき、後悔だけはしてはいけないと努力してきましたが、今回薬剤師という私の過去に光を当てていただき、現在と過去を肯定的にとらえ、講演させていただいたことで、自分自身が選んだ人生の大きな分岐点が間違いではなかったと、より一層背中を押してもらった気がしました。

神奈川県薬剤師会の理事の先生方には重ねて御礼申し上げます。

講演を終え感謝の気持ちの礼

会場にはかつての薬学部時代の同級生や、近隣薬局の管理者の先生方も多く来られており、同窓会のような気分にもなりました。

講演終了後には多くの拍手を頂きながら、私自身が薬剤師からの卒業を果たしたような気持ちになりました。

これからも地域医療に励む医師として、薬剤師の目線も知っているチーム医療の一員として、在宅医療に取り組んでいきたいと胸に誓った一日になりました。